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全日本モトクロスに挑むオーストラリアの覇者ジェイ・ウィルソン(後編)

ジェイ・ウィルソンがインタビュー前編で口走った、インターバルトレーニングとは何か? その実態がいま明らかになる。

TEXT/ 浦島信太郎  PHOTO/モトクロnet

Q. インターバルトレーニングというと、走って休んでを交互に繰り返すイメージがありますが…。

A. 休むことはあまり想定していないので、スプリントトレーニングと言い換えた方がいいかもしれない。
要するに30分とか35分のヒート練習やモト練習よりも、1周とか2周を全力で走るスプリントを繰り返した方がスピードを身に付けられるということだ。
いろんな方法があるけれど、僕が取り入れている練習法の一つが、ジョシュ・コピンズ(1999~2012年MXGPライダー。2002年250ランキング2位、2005年MX1ランキング2位。引退後ニュージーランドでジョシュ・コピンズ・レーシングを主宰)に教わった「ピラミッド」というプログラムだ。

Q. 具体的にどういう?

A. 1周+2周+3周+4周+3周+2周+1周を全力で走るんだ。
周回数をグラフにするとピラミッド型になるので、それが名前の由来だと聞いた。これはきついよ。
1周したらスタートに戻り、休まずにまたスタートして2周…というスプリントを積み重ねる。全部で16周になるので、1周2分ぐらいのコースだとトータル走行時間は32分を超える。
ヒート練習と同じ周回数になるかもしれないけれど、違うのはゼロからスタートしてすぐに全開という走りを繰り返すことだ。

Q. それで持久力は鍛えられるのでしょうか?

A. スプリント練習によって、30分ヒートで遅くなるわけじゃないよ。モトクロスの練習法は他のスポーツと比べて遅れている面があると思う。
伝統的な練習では、満タンのガソリンを空にしては休み、また満タンを空にするみたいなのがヨシとされてきたかもしれないけれど、インターバルの方が理にかなっている。

Q. 確かにラストスパートも大事ですが、やっぱりスタート直後のさばき方ですよね。

A. スタート直後の方が一気に何台も抜けるでしょう。縦に広がってしまうと抜くのに時間がかかる。だから最初の数周に集中する。
開幕戦では3ヒートとも序盤から思い切りプッシュしたけれど、リードした後はアグレッシブすぎてはいけないと判断して抑えたんだ。
スムーズに、ミスを最小限に、程良いギャップを得てからは、80パーセントぐらいだったかな。
特にヒート2は撒水が多くて、3-3で飛ぶセクションなのに飛べなかった。リザルト的には1-1-1だから満足だけど、ライディングには納得していない。もっと上手く走りたかった。
それでもヒート3は、ベストな走りができたと思う。いつかどこかで100パーセント注力しないと勝てない展開になるかもしれないので、そういうレースができる日を楽しみにしているよ。

Q. 15分×3ヒート制はどうでしたか?

A. 30分×2ヒートはオールドスクールで、保守的なファンやライダーが好むかもしれない。でも日本の現状を考えると、15分×3ヒートの方がいいと思う。
若いライダーやノンファクトリーライダーにもチャンスがある。接戦になることは間違いないので、15分の方がいい。30分にも戦い方があるし、個人的にはどっちも好き。

Q. オーストラリアでもやってましたよね?

A. 3ヒート制、2011~2012年にはよくやっていた。10分×3ヒートだけじゃなく、15分×2ヒートというフォーマットもあったね。
日本のタイムスケジュールとは違って、5分しかインターバルがなくて、チェッカー受けて水飲んで給油して、すぐにスタートラインに並んでいた。その間5分だからね。
マシントラブルやケガがあると大変だけど、自分は例の「ピラミッド」式の練習をしていたので対応できていた。

Q. 10分スプリントが3本連続で、しかもレース間が5分! そういう厳しさがオーストラリアンのスピードを育んだのでしょうね?

A. それは確かだろう。オーストラリア式の10分×3ヒートでは、スピードだけじゃなく持久力も要求されるからね。

Q. あなたが開発ライダーを担当している、EPS(Electric Power Steering )のインプレッションを聞かせて下さい。

A. 去年の菅生で取材されたときには答えられなかったけれど、今ならコメントできる。仕組みのことはよくわからないけどね。とにかく快適なんだよ。
ヘッドシェイクは全くないし、コーナリング中はトラクションを感じる。パワーステアリングというよりも、全てが自然なんだ。
当初は空中で少し違和感があったけれど、今ではスクラブもできるしね。ヒート間でもセッティングは変更していないし、まとまってきていると思う。
ライダーとしてはマシンの安定感が増し、疲れないで乗れる時間が長くなった気がする。
プロからビギナーまで恩恵を受けられるシステムなんじゃないかな。まだ開発中だからいろいろと試すことはあるけれど、現時点ではいい感じ。
僕のYZ250FとYZ450FM×2台が好成績を残しているので、正しい方向に進んでいることは確かだ。ヤマハの未来は明るいよ。

Q. マシン開発に加えてライダー育成も使命だと聞きましたが…。

A. そう、さっきも言ったように、若いライダーを育ててYZのプレゼンスを高めることも任務の一つ。というよりも、ヤマハのために尽くすことが生きがいなんだよ。
オーストラリアでもブルークルー・ライダー育成スクールを開催してきた。レースウィーク前の木曜や金曜にスクールをやって、レースデーにはブルークルーイベントを催すなど、ヤマハは育成やファンサービスに力を入れているからね。
夏休みにはトレーニングキャンプとか、そういうのに集まってくれる子供たちの顔を見るのがうれしかった。もちろん大人もね。
今年は日本でスクールを開きたい。実はヤマハから「夏休みにはオーストラリアに帰るのか」と尋ねられたんだけど、僕はずっと日本に残ってスクールをやりたいってお願いしたんだ。
だって夏休みは子供たちがバイクに乗れるいいチャンスじゃないか。

Q. ブルークルーの生徒たちに教えたいことは何ですか?

A. 最優先なのはセーフティ。まずは安全を教えたい。スピードは後からついてくる。
速く走るのはテクニックを身に付けてからだ。

Q. あなたが子供のときモトクロスを教わった、エディ・ウォーレンとはどのように出会ったのですか?

A. グレンイネスという、当時人口5,000人程度だった町が僕の故郷なんだけど、その町外れのダンディかディープウォーターという20人ぐらいの集落にエディが住んでいた。
父の知り合いの紹介でコーチを依頼することになり、ウチのコースに来てくれるようになったんだ。
エディと初めて会ったのは10歳の頃だったかな。僕は3歳で乗り始めて、4歳からレース。その後真剣に取り組むようになって、コーチが必要になったんだ。
練習中のエディは、450で僕の85をプッシュし続けた。

Q. それはさぞかしうるさかったでしょう。

A. そうだね。父とエディが仲良くなると、クリスマスやイースターなどの休日はいつも一緒に過ごすようになった。
キャンプファイヤーを囲んで、エディにいろんな話を聞いた。好奇心旺盛な年頃だから、質問攻めだよね。
スーパークロスチャンピオン、全日本チャンピオン、エピソードには事欠かなかった。
エディの家に行くと、SHOEIヘルメットがいくつも飾ってあって、カスタムペイントに興味津々。
同じように日本に来ることができた今、僕はエディと同じSHOEIをかぶっている。本当に夢のようだよ。

Q. 今回の来日の件を知ったエディの反応は?

A. すごく喜んでくれたよ。彼は全日本モトクロスに3シーズン参戦したけれど、僕も肩を並べることができたらうれしい。

Q. エディは元コーチでヒーローですが、ジョシュはあなたにとってどんな存在ですか?

A. コーチという共通点があるけれど、ジョシュはボスであり、友人であり、尊敬すべき人物。
現役時代の努力、ネバーギブアップ精神、引退してからニュージーランドで築いた地位、ヤマハとの関係、レースキャリアもその後のキャリアも素晴らしい。
プライベート時代はジョシュに買ってもらったタイヤで参戦していたこともあったし、本当に謙虚ですごい人。
僕がオーストラリアで使っていた#6はキャリアナンバーなんだけれど、もちろんジョシュの#6にちなんだものだ。
一昨年のアメリカでは#106、昨年の菅生では#106、そして今年は#16でしょ。
僕はジョシュの#6に見守られているような気がする。

Q. ジョシュとエディを全日本に招待しませんか? 最終戦の菅生はどうでしょう?

A. クールだね! 喜んでくれると思う。考えてみようか。

▼Jay Wilsonジェイ・ウィルソン
モトクロnetプロフィール http://mx-danshi.com/mxdanshi/rider/368

▼プロフィールジェイ・ウィルソン
オーストラリア出身1994年7月19日生まれ
2009年FIMジュニアワールド85チャンピオン
2013年オーストラリアSXDチャンピオン
2013年ニュージーランドSX2チャンピオン
2014年ニュージーランドSX2チャンピオン
2015年オーストラリアMX2チャンピオン
2015年ニュージーランドMX2チャンピオン
2018年オーストラリアSX2チャンピオン
2021年全日本モトクロスMFJ-GP IA2完全優勝
2022年全日本モトクロスIA2ランキング首位