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全日本モトクロスに挑むオーストラリアの覇者ジェイ・ウィルソン

TEXT/ 浦島信太郎  PHOTO/モトクロnet

昨年最終戦でのインタビューに続く第2弾! オーストラリアから移住してきたジェイ・ウィルソンに、日本での暮らしや開幕戦の印象を語ってもらった。ヤマハが開発中のEPS、スピードを磨く練習方法など、数々の秘密が解き明かされる!

Q. 全日本モトクロス、フル参戦が実現しましたね。

A. ようやく夢がかなって、ホッとしているところなんだ。去年来日したときには明言できなくて申し訳なかったけれど、この計画については2年前からヤマハと相談してきた。
ライダー人生のほとんどを一緒に過ごしてきたヤマハのために、もっと貢献したい気持ちがまずあったんだ。レーサーとして勝ち続けることはもちろん、マシン開発やライダー育成などにも興味があるので、日本でじっくり仕事ができたらいいなと…。
これまでオーストラリアやニュージーランドにとどまらず、MXGPにもAMAにもチャレンジしたきた。でも27歳という年齢やワイフと子供のことを思うと、遠距離を転戦するのは難しい。
前回のインタビューで話したように、エディ・ウォーレン(1985年AMAスーパークロス125イーストチャンピオン。後年アメリカからオーストラリアに移住。1992年全日本モトクロス250チャンピオン)の足跡をたどることも夢見ていたので、日本という行き先がどんどん明確になってきたんだ。

Q. いつから日本に?

A. 来日したのは3月下旬。ぎりぎりの日程だったので、実はかなり際どかったんだ。
日本では2月まで入国が閉ざされていたけれど、3月になって緩和されたのでビザを申請した。
ところがちょうどそのタイミングでオーストラリアのブリズベンが洪水に襲われて、川の畔にある日本の総領事館が水浸しになり閉館してしまったんだ。
ビジネスや学生など緊急性が高くて、なおかつ出発日が近い人からビザを発給をしてくれるはずだったんだけど、事情が事情だっただけに閉館を責めることはできない。
それでも黙って待っていられず、総領事館に毎日電話していたよ。今日はオープンしますか、明日はどうですか? って。
開幕戦に間に合わなかったら…なんて 想像しただけで恐ろしい。

Q. 全日本のレースカレンダーにはずいぶん空きがありますが、オーストラリアと日本の間をどのように行き来するのですか?

A. 行ったり来たりせずに、ずっと日本にいるつもりだ。パンデミックでいろいろ紆余曲折があったけれど、来日が決まってから家も引き払い、車も売ってきたんだ。
オーストラリアには何も残っていないし、今は静岡県に住んで家族みんなで日本の生活を楽しんでいる。
家の近所にはヤマハの社員が大勢いるし、とてもいいコミュニティだ。

Q. ご家族を紹介して下さい。

A. ワイフのミスティは元々ジャーナリストで、オーストラリア選手権などでプレス受付やインタビュアーを務めていたんだ。
僕は表彰台に立つことが多かったから、インタビューを受ける度に彼女と親しくなってね。
ミスティはヨガのインストラクターでもあるんだけれど、日本ではまだ仕事が見つからなくて、ユーチューブで発信しようかと試みている。
娘のポピーは5歳で、幼稚園に通い始めたところ。日本語オンリーの幼稚園だけど、英語を話す子が2人いる。
家族はモトクロスを観に来るのが好きで、ポピーは僕の大ファンなんだよ。
ミスティはヨガの知識を生かして、レース場ではウォームアップを手伝ってくれる。ゲートが倒れたらレースに集中するけれど、それ以外は家族とハッピーな時間を共有するのが僕のスタイルなんだ。

Q. 普段はどこで練習しているんですか?

A. 近くのトレールランド浜北では、もっぱら練習じゃなくて開発テストで走っている。トミタ(富田俊樹)とワタナベ(渡辺)と一緒にね。
練習コースは、いなべとトヨタに行くことが多い。どちらも気に入っているけれど、もっと違うコースにも行ってみたい。
不満があるわけじゃなくて、いろんなタイプのコースを走るのが楽しみなんだ。
遠くまで出かけて開拓するのは、ちっとも苦にならないしね。路面としては硬いところで育ったので、自ずとハードパックが得意。サンドは難しかったけれど、練習してテクニックが向上するのが面白くて、今では好きになった。
オーストラリア選手権でもサンドコースがあって、何度も優勝経験がある。マディも苦手じゃないよ。
プロ初勝利はマディだったしね。

Q. 1週間をどう過ごすのか、典型的なパターンがあれば教えて下さい。

A. 日曜がレースだったとすると、当日中か月曜には家に戻る。月曜はレースの疲れを残さないように、カーディオエクササイズ(有酸素運動)をやる。
火曜は完全休養日。水曜と木曜がライディング。練習日は週に2日だ。
金曜はジムでトレーニングとカーディオをやる。もし次の日曜がレースだったら、金曜は移動日になる。
レースのない土日は家族と一緒に過ごす。カヤックとかマウンテンバイクとか、アクティブな遊びが多いね。
僕のマウンテンバイクには子供用シートが取り付けてあって、ポピーを乗せて走るんだ。
この間も3時間一緒に走ったけど、娘はずっと寝ないでずっと起きてたし、キャッキャキャッキャ言いながら喜んでいたよ。

Q. モトクロス以外で好きなスポーツはありますか?

A. 12~13歳の頃まではラグビーリーグをやっていたけれど、進路を決めなきゃいけなくなって諦めたんだ。
ラグビー仲間の同級生には引き止められたよ。でもモトクロスに専念するために決断した。
それから観るだけなら野球も好き。静岡県民としてはどこを応援したらいいの?

Q. 中日ドラゴンズでしょうか、チームカラーもブルーだし…。それよりヤマハだったら、サッカーとラグビーがあります。

A. いいね! 今シーズン中に行ってみるよ。

Q. 先日聞いたニュースなんですが、オーストラリアの野球リーグ(ABL)と日本のプロ野球(NPB)が、垣根を低くして選手の往来を活性化させるみたいですよ。

A. それは正にヤマハがトライしていることと同じで、コータさん(鳥谷部晃太)がオーストラリアに来て、その後に僕が日本に来るみたいな。
交流が深まるのは素晴らしいことで、お互いに刺激し合ってレベルを高めることができたらいいと思う。

Q. 話は変わりますが、オーストラリアンというとベジマイトをネタにいじられますよね。

A. あれはかなり臭い発酵食品なので、オーストラリアでも嫌いな人はいる。僕も苦手だけど、ミスティは割と好きみたいで、ベジマイトとバターを混ぜてパンに塗ってる。
僕はピーナッツバターの方がいいなぁ。あとチョコも好きだ。ミスティはアジアン料理を研究していて、タイやベトナムのご飯が得意なんだ。
タイの…ガッパオ…だったかな。それから日本料理にもトライしているし、我が家の食卓はとてもエキゾチックなんだよ。

Q. 外食することもあるでしょう。ハンバーグの「さわやか」には行きましたか?

A. おー! それそれ! さわやかには3回行ったよ。あそこのハンバーグは、オーストラリアに帰ったような懐かしい味がする。
デミグラスソースよりも、オニオンソースの方が好き。ハーフ&ハーフやソルト&ペッパーも試すようにすすめられたので、いつかトライしようと思ってる。

Q. うなぎは食べたことありますか?

A. エナジーイールのことだね。見た目がちょっとアレだけど、食べたらすごく旨かった。
ムラハシさん(村橋健太郎)、ウチヤマさん(内山学)とうなぎ屋に行ったんだよ。
スタミナが付くと聞いたので、夏のレース前には食べないとね。毎日となるとちょっとどうかと思うけど、たまに食べたくなる美味しさだったよ。

Q. となると牛タンも経験済みですね?

A. 去年の菅生に来たとき、2週間の隔離期間中ずっと牛タン弁当を食べていた。
最初に差し入れてもらったときに、旨い! と言ったら毎日牛タン弁当が届くようになって、好きじゃなくなってしまったけどね。

Q. そろそろレースの話をしましょうか。去年のスポット参戦と今年のフル参戦、心構えは違いますか?

A. ベストを尽くすことに変わりはない。ただ、シーズンを通してクレバーに戦うことも大事だと思っている。
他のライダーが勝つレースもあるだろうし、自分のスタート失敗やクラッシュでポイントを失うこともありうる。
頭をクールに保っておかないと、パニックになって転倒を繰り返したりするからね。

Q. 開幕戦はどんな印象でしたか?

A. HSR九州のレイアウトはワイドで気に入った。予選では滑りやすい路面に苦労したけれど、日曜には問題も解決。
轍ができてテクニカルになったので面白かったね。日本のライダーはみんな速くて驚いたよ。
ソーヤ(中島漱也)は手強い相手になると思った。ホンダの#10(柳瀬大河)も予選で速かった。リョータ(浅井亮太)もいい。負傷からカムバックして調子も上向きだ。
みんなが競い合って成長すれば、シーズン終盤にはフィニッシュまでバトルを見せられるようになりそうだ。

Q. 3ヒートともヤマハ1-2-3でしたね。

A. 開幕戦は予選から順調で、1番目のゲートピックが取れた。イン側をチョイスしたのは安全策だよ。
3ヒートともトップ5でスタートして、オープニングラップでリーダーになった。滑りやすいコンディションだったけれど、最初の数ラップは思い切りスプリントで飛ばした。
慎重にはなったけれど、序盤で前に出るのが鉄則なのでその点は重視した。ヒート1よりヒート2、ヒート2よりヒート3の方が追いかけてくるライダーが増えたような気がする。
自分の任務は勝ってチャンピオンになることだけでなく、EPSの開発とYZ250Fのプレゼンスを高めること、ヤマハの若いライダーを育成することだったので、1-2-3で証明できたんじゃないかな。

Q. ゲートを出た直後、隣りのライダーに膝蹴りしてませんでした?

A. あー! ヒート3のあれね。バランスを立て直すのに必死だっただけだよ。真っ直ぐに出られなくて、右にウイリー、左にウイリーと苦労していた。
別に隣のライダーに蹴りを入れたわけじゃない。

Q. 1周目のスピードがもの凄く速かったですね。どうして1周目からあんなに飛ばせるんですか?

A. 自分の能力とマシンを信じて攻めている。リスクにも種類があって、なんとか対応できるリスクと本当に危ないリスクがある。
そういったことを考えて攻めているので、ただ無茶しているわけじゃないんだよ。
でも1周目に様子見しているようではチャンスはない。1周目から思い切り攻めて、なるべく上位につけないとだめ。そのスプリント走法を可能にする練習法が、インターバルトレーニングだ。


ジェイ・ウィルソンのスプリント走法とは? インターバルトレーニングとは? その秘密はインタビュー後編にて!!!

▼Jay Wilsonジェイ・ウィルソン
モトクロnetプロフィールhttp://mx-danshi.com/mxdanshi/rider/368

▼プロフィールジェイ・ウィルソン
オーストラリア出身1994年7月19日生まれ
2009年FIMジュニアワールド85チャンピオン
2013年オーストラリアSXDチャンピオン
2013年ニュージーランドSX2チャンピオン
2014年ニュージーランドSX2チャンピオン
2015年オーストラリアMX2チャンピオン
2015年ニュージーランドMX2チャンピオン
2018年オーストラリアSX2チャンピオン
2021年全日本モトクロスMFJ-GP IA2完全優勝
2022年全日本モトクロスIA2ランキング首位