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J.ウィルソンインタビュー(後編)

オーストラリアMX・SXチャンピオンのジェイ・ウィルソンインタビュー後編

Q. オーストラリアが次々と強いライダーを輩出している秘密を知りたいのですが…。

A. いろいろな土質で育つからじゃないかな。ハードパックだけじゃない。サンドだけじゃない。サンドにも種類がある。ニュージーランドも含めて、オセアニアで育ったライダーは、ヨーロッパやアメリカに行ってもすぐに慣れる。何でもトライしてやってやろう、という積極的なマインドを持っていることも我々の強みかもしれない。

Q. では、オーストラリアやニュージーランドのライダーは、国内選手権を戦いながら何を目指すのですか?

A. オーストラリアンは、ひとまずヨーロッパを目指す。アメリカには充実したアマチュアプログラムがあって、オーストラリアンが入り込むのは難しい。まずヨーロッパで自分を証明して注目されてから、アメリカに行って成功することを夢見ている。ハンター・ローレンスとジェット・ローレンスの成功パターンだよね。

Q. ローレンス兄弟は、ジュニアの頃に早々と渡欧していますね?

A. ハンターとはジョシュのところでワンシーズン一緒だった。その翌年に彼はヨーロッパに行って、ジュニアワールドに出ていた。若くていろいろ吸収するにはいい年齢だったはずだけれど、両親はよく決心したと思う。リスクを取ったからこそ、今日の成功があるのだろう。ローレンス兄弟は今、あの若さ(ハンター22歳/ジェット18歳)であのポジションにいるから、すごく明るい未来が開けている。いつまでもフィットネスを保って活躍して欲しい。

Q. 日本に来てからヨーロッパに渡り、その後アメリカで成功したチャド・リードの例もありますね?

A. チャドはすごい。彼の功績を的確に表現できる言葉が、パッと思い付かないくらいだ。我々が目指す道を切り開いてくれたし、ヨーロッパやアメリカがオーストラリアに注目するようになったのはチャドのお陰だ。誰でも彼のようにAMAチャンピオンになれるわけじゃないけれど、アメリカでテクニックとスピードを磨いてオーストラリアに戻り、活躍しているライダーは大勢いる。

Q. ニュージーランドとの交流は、どのように行われているのですか?

A. まず国内選手権の日程的には、1〜3月にニュージーランドMX、3〜8月にオーストラリアMX、10〜11月にオーストラリアSXという順なので、ニュージーランドはプレシーズン的な位置付けなんだ。日程が重ならないように両国のフェデレーションが調整しているし、国際ライセンスを持っていればポイント資格もあるので、両方でチャンピオンを狙うこともできる。ウォームアップというよりも、どちらのシリーズも真剣勝負だね。ライダー全員が行き来するわけじゃないけれど、トップライダーの多くは両方に出場している。僕らの立場からすると、2〜3ヶ月ニュージーランドに留まって練習とレースをこなした後、オーストラリアの開幕を迎えるというのがパターンだ。

Q. オーストラリアのクラス分けは?

A. ナショナルは上からMX1、MX2、その下にMX3がある。このMX3は以前のアンダー19やMXDに置き換わるもので、今年から採用された新しいクラス。ジュニアがプロデビューする前に参戦できて、ナショナルの雰囲気を感じ取れるメリットがある。年齢制限は14〜18歳で、MX3からジュニアに戻ることもできる。もちろん成長の早いライダーは、16歳になったらMX2にエントリーしてもいい。僕の場合はアンダー19クラスに3年いたけれど、なかなか勝てなかったし、成長するにはそのぐらいの期間が必要だったんだ。

Q. 途上期のクラスに自由度があるのはいいことですね。

A. クラス分けに関しては、僕が知る範囲だけでも微調整を経て進化している。エイジグループを世界標準と擦り合わせたり…。MX3の新設が正解だったかどうかは、これから頭角を現してくるルーキーが証明してくれるだろう。

Q. オーストラリアのライダーは、親からモトクロスを教わるのですか?

A. もちろんそれもあるけれど、オーストラリアでは育成システムが充実していて、スクールがあちこちにあるんだ。例えば「ビートンズ・プロ・フォーミュラ」は、GPライダーのジェッド・ビートンの兄、ロス・ビートンがビクトリアでやっているトレーニングキャンプで、多くのライダーを輩出している。クイーンズランドには「フォード・デイル・エリート」というスクールがある。フォード・デイルはSUGOで勝った(2012年IA2完全優勝)ことがあるから、知ってるでしょう?

Q. 思い出しました。プライベートだったのにピンピン…。

A. オーストラリアには、現役時代よりも引退後にコーチとして有名になる人が多いかもしれない。実は僕もbLU cRU(ブルークルー)のライダー育成スクールのコーチとして、あちこちでトレーニングキャンプを開催しているんだ。ヤマハからこの企画を持ちかけられて以来、教える喜びを感じている。キッズでも大人のライダーでも、上達すると生徒の表情が輝きだすんだ。自分にとってレースで勝つことは最優先事項だったし、それは今でも変わらない。ただ、ヤマハから与えられたコーチという仕事をしていると、キッズたちが何かを覚えたり成長して喜んでいる姿を見たときに、僕もスマイルをこらえることができない。この1〜2年は国内でも移動が難しくなっているけれど、世の中が落ち着いたらコーチの仕事がもっと忙しくなるだろう。

Q. ヤマハはオーストラリアでも育成に力を入れているんですね?

A. スクール以外にも、YZ65カップというレースを開催している。キッズたちがプロのトランスポーターを使って、ナショナルレベルでのレースが体験できるんだ。バイクの宣伝にもなるけれど、将来こういう世界があるんだという夢を見せてくれるところがいいと思う。自分が子供の頃、こんなレースがあったらよかったのになぁ。

Q. あなたの今後のプランについて聞かせて下さい。

A. オーストラリアでは、本来なら10戦ぐらいあるはずのナショナルが、3戦消化しただけで成立したばかり。今はパンデミックの影響もあるし、来年はどうなるのか不透明なので、ライダーたちも迷っているところなんだよ。

Q. だったら全日本にフルタイムで参戦してみたいと思いませんか?

A. 日本で全戦走る機会があるのなら、オファーに対してノーと言う理由はない。オーストラリアのライダーたちは、国内よりとにかくレース数をこなしてきた欧米で走りたいと思っているし、日本も選択肢の一つになるだろう。

Q. もし来年あなたが全日本に出場することになったら、30年ぶりのウォーレンになれますよ。

A. それは光栄だね。まあ、自分はオーストラリアに留まってチャンピオンシップを防衛するタイプではないし、どちらかというと積極的に飛び出す方だ。450タイトルはまだ獲得してないからもちろん目標ではあるけれど、それよりも機会があればどこへでも行くし、どんなレースでもベストを尽くしたい。マインドは至ってオープンだ。

Q. あなたが架け橋となって、日豪間の交流がもっと盛んになったらいいですね。

A. オーストラリアのモトクロス界はそれほど大きくはないが、非常にコンペティティブだ。世界の中心から遠いかもしれないけれど、努力しないと勝てない。日本のライダーが増えたら、もっと盛んになって面白いことになるよ。去年チームメイトだったコータさんは、フィットネスも上がりとても速くなったし、ライダーとしてトータル的に成長した。レースカレンダーが日本とかぶるので、ユーさんのようにニュージーランド選手権だけをウォームアップとして利用するのもいいプランだと思う。

Q. あなたにとって人生のゴールとは?

A. これからは子育てが楽しみだ。そう、僕はファミリーマンなんだよ。娘には「夢を追い続けろ」と教えたい。簡単ではなかったとしても、努力すれば夢は叶えられる。そういう姿をレースを通じて見せていきたい。立派な父親の姿を…。僕自身サクセスフルなキャリアを築いてきたと思うし、まだまだ続きがある。モトクロスの世界は非常に厳しいけれど、その一方でレースを楽しみたい気持ちもある。この先に年齢的な衰えによる挫折が待ち受けているかもしれないけれど、楽しめなくなったら引退を考えるだろう。今は楽しいので続けている。

Q. やり残したことはありますか?

A. 世界チャンピオンになりたい。実現していないけれど、実現しなかったと言い切ることはできない。そして、さっきも言ったように、チャンスががあればどこへでも行くよ。