3年ぶりの開幕戦へ――チャンピオン富田俊樹が語るモトクロスへの思い

スタートゲートに立つ理由は、以前とは少し違う。
3年ぶりに全日本の舞台へ戻ってきた2022年IA1チャンピオン富田俊樹。その表情にあるのは、かつて背負っていた重圧ではなく、どこか柔らかな余裕だ。レースを離れ、開発ライダーとしてバイクと向き合い、家族との時間を重ねてきた日々。その中で見えてきたのは、「勝たなければならないレース」ではなく、「楽しめるレース」という新しい向き合い方だった。
「引退」とは言っていない。ただ“離れただけ”
――まずは復帰の経緯から教えてください。
「お久しぶりです。開幕戦に出ることになりました。2シーズン走っていなかったので、実質3年ぶりですね。ただ、自分では“引退”とは言っていなくて。“全日本を辞めます”という言い方をしていました。完全に区切ったつもりはなかったんです」
レースチームからは離れたが、ヤマハの開発チームから声がかかり、テストライダーとしての道を歩み始めた。
「最初はMXGP用マシンのテストをして、今は量産のYZを中心に担当しています」
レースしか知らなかった自分が、初めて“社会”に出た
5歳からモトクロス一筋。
いわゆる“普通の社会人生活”を経験したことはなかった富田選手。
「正社員として毎日出社するような働き方をしたことがなくて。バイトも未経験でした。履歴書の書き方すら分からなかったですね。空いた時間にアルバイトも経験して、1000円を稼ぐのって、こんなに大変なんだと実感しました。それまで好きなことでお金をもらえていたのは、本当に恵まれていたんだなと気づきました」

テストライダーという新しい視点
現役時代、レースは“楽しい”だけではなかった。結果が求められ、プレッシャーも大きかった。
「レースが仕事になっていて、正直しんどい部分もありました」
しかし、開発の現場でバイクと向き合う中で、モトクロスの見え方が変わった。
「パーツを変えたらどう感じるか。それがノービスにもトップライダーにもどう影響するのか。いろんな視点で考えるのが楽しくなってきたんです。それをやっていく中でレース見ててさらに面白いと思えるようになった」
勝つためだけではない、“みんなのためのバイク作り”。

プレッシャーのないレースを、一度やってみたい
レースから離れたことで、冷静に競技を見られるようになった。
「チャンピオンシップをずっと考えながらレースしてきた人生だったけど、そういうプレッシャーがない状態で走ったらどうなるんだろう、って思ったんです。違うトライもできるんじゃないかと」
休止中、エキシビション的なレースやイベントレースに出たりはしたが、全日本には出場していない。
「自分の趣味みたいな感覚で全日本に出て、周囲を巻き込むのは違うなと思っていました。でも結局出るってなって巻き込んじゃってるんですけど、ヤマハの開発にもつながる目的がある。意味のある参戦だと思えたので、出場を決めました」
そして家族のバックアップも心強い
「嫁は常にケガを心配していたのですが、辞めたらやめたで刺激がなかったのか知らないんですけど、今回“出る”と言ったら、『お!いいじゃん』って。子供は、練習でコースに連れて行くと“バイク!”って。ストライダーに乗りながらエンジン音の真似をしたりして。家族で楽しめている感覚があります」

マシンは“ほぼスタンダード”
今回使用するマシンは、基本的に市販仕様がベース。
「KYBのサスペンションは少し味付けしていますが、一般ユーザーでもできる範囲です。スプロケットを変えたり、iPhoneでできるYZのセッティングアプリで調整したり、その程度ですね」
「出場を決めたのが3〜4か月前。トレーニングもそこから再開しました。技術スキル的なところはあんまり落ちてはないかなっていう感じはあったんですけど、筋力はまだ足りない。でも開幕は15分×3ヒートなので、今の自分にはちょうどいいかもしれません。嫁指導のピラティスのトレーニングはスパルタですね」

地元・中部で迎える開幕戦
「石川出身で今愛知に住んでいて、いなべは近くでずっと練習きてきたところでもあるし岡田社長も良くしてくれています。現役だった頃からいなべで全日本を開催してほしいと思っていました。出るからには前の方で走りたい。石川から応援に行くよと言ってくれてるヒトもいますし、スポンサーも支援してくれていますし、目立ちたい気持ちはあります!」
「楽しみながら走りたいですね。それでお客さんが少しでも楽しんでくれたらうれしいです!」
全日本モトクロス開幕戦は3月15日 いなべモータースポーツランドで開催
3年ぶりの富田俊樹がどんなレースを見せてくれるのか楽しみだ
開幕戦チケット情報



